教育従事プログラマーというキャリアについて
株式会社ドワンゴの教育事業本部でN高等学校のプログラミング教育を担当しているエンジニアのsifueといいます。
N高等学校は2016年にできた通信制の高校で、現在は7000名以上の生徒が在籍しており、その中の800名近い生徒が全国に8箇所あるキャンパスに通っています。
自分は2015年9月に開発を行う部署から教育事業本部に異動してきました。最初はひとりでしたが、3年経った現在では4人の教育従事プログラマーで、N高等学校のプログラミング教育を行っています。
自分がこの3年間で主にやってきたことは、
などです。
2018年度の教材制作でいうと、N予備校の「ニコニコ動画再現コース」をリリースしたことがあります。
この「ニコニコ動画再現コース」は、ScalaでJWT認証をするMPEG-DASHで動画配信サーバーを実装したり、ドワンゴの特許の学習用途で許諾をとった上でニコニコ動画的なコメントのオーバーレイ表現をする動画プレイヤーの実装をしていくコースです。最終的にこれらの技術要素を組み合わせて、ニコニコ動画を大体再現したプロダクト、“エヌエヌ動画"を開発します。
開発するエヌエヌ動画のスクリーンショット |
その他にも、生徒にSlackや学内LT大会などで紹介するためのプロダクトを開発したりもしています。
- 電子工作でLEDキューブを制作
- 3Dプリンタでオリジナルネームプレートの造形
- Blenderで自作アバターを作ってバーチャルキャスト
- 学内コンテストで生徒と一緒に競技プログラミング
以上のようなことをして生徒に見せたり、また、生徒たちの作ったプロダクトやコードをレビューしたりもします。
「作ることで学ぶ」というコンセプト
N高等学校では、オンライン学習サービスであるN予備校を使った教材提供、生放送授業も一つの魅力であり、もちろんそれを薦めたいというのもありますが、それ以上に生徒がやりたいことに対して寄り添うということを重視しています。
プログラミング学習で何より重要なのがやはり「何かを作りたい、やりたい」という本人の情熱なのです。この学び方をコンセプトとして落とし込んだものが「作ることで学ぶ」です。
N予備校では、
- Webプログラミング (Node.js/Scala)
- スマホアプリ開発 (iOS/Android)
- 機械学習 (Python)
- ゲームプログラミング (Unity、バンタンと提携コンテンツで一般には非公開)
以上をプログラミング学習の教材や映像授業として用意しています。
ただ、これらのジャンルを用意しているのは高校生としてインターンやアルバイトをする際にこれらの技術が役に立つから、という理由からです。もちろん実際にこれらを学び、自らのオリジナルの作品集であるポートフォリオを作って、インターンやアルバイトをしているN高生たちもいます。
しかしながら、プログラミングで生徒たちがやりたいことはこれだけではありません。言語が違うこともあれば、そもそも学びたいジャンルが違うということもあります。
プログラミングを通じてできることは非常に多種多様であり、それらの教材を全て用意することは大変困難です。そのため、N高等学校では生徒と対話し、講師自身も一緒にインターネットを通じて学びながら、生徒自身が推し進めるプロジェクトをサポートし、彼らが実現したいこと手助けすることを重視しています。(とはいえ助けすぎないようにもしています)
ほんの一部ですが、生徒の例として、
- 自作プログラミング言語を作っている生徒
- GLSLでシェーダー作品を作っている生徒
- GAE/GoでWebサービスの運用を行っている生徒
- 競技プログラミングに打ち込んでいる生徒
- Minecraftの有名なMODを配布している生徒
- 自作キー入力デバイスを作っている生徒
- などなど
このように挙げればきりがないほど、多種多様なプログラミングをしている生徒がいます。
そんな彼らをサポートし、作品を見たり、詰まったところでは相談に乗ったり、また、同じジャンルで開発を行っている生徒たちだけのコミュニティを作ることを支援し、発表する場や挑戦する場を案内する、そのような活動を行っています。
作った将棋アプリを紹介する生徒 |
N高のプログラミング教育では、このように情熱を持って自らのプロジェクトを推し進め、仲間たちと切磋琢磨したり協力したり遊んだりしながら学ぶことが、彼らのプログラミングスキルを高めることに大きく寄与すると考えています。
オライリーから出ている「作ることで学ぶ」という本の中では、“教師 (teacher)” という言葉を ”教える人”ではなく、”共に学ぶもの” という意味で使っています。N高等学校のプログラミング教育を行っているチームでは、生徒に接することで共に学び、常に新しい技術を学んでいくということを目標としています。
このような教育方針でやってきた結果、2018年には特に大きな成果が出ています。(といっても生徒が頑張っているだけで我々はその環境を作っているだけにすぎないのですが…)
- 国際情報オリンピック2018 銅メダル
- スーパーコン2018 予選10名参加、本選3名出場
- パソコン甲子園2018 予選18名参加、本選2名出場
- セキュキャン2018 参加1名
- U-22プログラミングコンテスト2018 最終審査で受賞2作品2名
- 学内LT大会2018 計4回
- 動くWebコンテストコンテスト2018応募 6名
などがあります。
スーパーコン2018本選に参加したN高の生徒たち |
教育従事プログラマーというキャリア
生徒の中にはこの2年半のうちに、全くのプログラミング初心者からはじめて日本の高校生の中で有数の成果を上げたような生徒もいますし、内面的にも成長してN高等学校の中でコミュニティを作り盛り上げることができるようになった生徒もいます。またプログラミングを通じてプロジェクトのリーダーとして仲間を率いて活動するようになった生徒もいます。
人はここまで変われるものか!と驚かされることもあります。このように人の人生を大きく変えるような仕事に関われるということが教育関係の仕事の大きな魅力です。
異動当初は、教育従事プログラマーなり現場を離れることで、自分自身のスキルの低下を心配していた面がありました。しかし「作ることで学ぶ」というコンセプトのもとに、生徒のニーズに合わせて常に新しい技術を追いかけることで、新しい技術にはついていきやすい環境であり、今は、そのような心配は不要であると考えています。
教育従事プログラマーの仕事は拡大中
このような生徒の成長に関わるプログラマー、教育従事プログラマーの仕事というのは急速に拡大しつつあります。一つには2020年小学校でのプログラミング必修化によるプログラミングブームの影響があります。小学生プログラミング教育の現場では、ScratchやLEGO MINDSTORMS、ロボット教材を使ったプログラミングは現在加熱気味ですが、しかしながら中高大学生と産業界の現場を繋げる部分の教育がまだまだ充実している状態とは言えません。
今後、企業でのインターンやアルバイトを高校生、大学生のうちにするための架け橋を作る学習サービスや機関、仕組みが増えていくことが考えられます。それに伴い、生徒とコミュニケーションを取って教えることができるメンターの役割を果たす教育従事プログラマーの職というのは今後増えていくのではないかと思います。
有名な教育従事プログラマー
この教育従事プログラマー界で有名なプログラマーの方々を紹介しておきます。
- 阿部和広先生 @abee2
- Scratchだけでなく、小中学校のプログラミング教育といえば阿部先生です。Smalltalkerであり、沢山の著作に関わられており、生徒たちの指導方法を参考にさせてもらっています。
- Yu Ukaiさん @ukkaripon
- 未踏に所属されており、プログラミング教育に関する様々な企画を進めてくださっています。Minecraftの教育展開にも関わっておられ、N高等学校でも様々なところでお世話になりました。
- 安川要平さん @yasulab
- 安川さんのRailsチュートリアルにお世話になっている生徒がたくさんいます。実践的に多くの生徒に教えた経験を持たれている方です。自分がやりたい実際の社会に出て役立つプログラマーの教育に近いことをされている方と感じています。
プログラミング教育に関わられている方は、このお三方をフォローしておくだけ様々な情報が入ってくるのでフォローをオススメしたいところです。
N高等学校やドワンゴで、プログラミング教育を通じて生徒の成長に携わってみませんか!
こんなプログラミング教育をしているN高等学校、ドワンゴでは我々と一緒に教育従事プログラマーとして働いてくれる人を募集しています!
N高等学校 プログラミングクラスの講師
プログラミングクラスとは、通学コースの中でもプログラミングだけを学び、生徒自らのプロジェクトを推し進めていくという30名のクラスです。そのクラスのコーチとして働いていただくポジションになります。
プログラミングクラスの講師は上記のリンクより応募いただけます。
N予備校 教材制作/プログラミング講師
こちらはN高等学校の生徒とのコミュニケーションを取りますが、一般の社会人を相手に教育活動をしていくこともあるポジションです。N予備校内での生放送授業、教材更新、Q&A対応を通じた受講者とのコミュニケーションなども行いながら、ネットコースのN高等学校の生徒たちの成長に携わっていきます。
N予備校の教材制作/プログラミング講師は上記のリンクより応募いただけます。
完全に宣伝ではありますが、今までずっと開発の現場におり、後輩を教えたり、チームメンバーと勉強会をしたりと「教育」に興味があって、職を変えてみたいというエンジニアの応募は大歓迎です。
教育従事プログラマーに興味があるよという方、話をすることもできますのでsifueに声をかけて貰えればと思います。ぜひともどうぞ、宜しくお願いします。